スオウ(
Caesalpinia sappan L、蘇芳、蘇木)は、古代のとてもたいせつな染料でした。
赤色染料として、中国にはすでに三世紀の『南方草木状』に記されていますが、日本では、『延喜式(927年)』に「蘇芳染」と記されているのが最初です。平安時代の『衣服令』では、蘇芳は紫よりは下位でしたが、緋や紅よりは上位に置かれていました。
『歴代宝案』という、琉球と東南アジアの関係を示す資料がありますが、それに寄れば、1425年から1570年までの145年間に、琉球からタイに派遣された貿易船は58隻(東南アジア全体では150隻)で、その最大の輸入品目は蘇芳だったそうです。
そのころ、琉球は貿易国でしたから、再輸出品として蘇芳を中国に運んでいましたが、日本本土にもかなり運んでいたようでした。
蘇芳は、木の枝ですからすごく嵩張りますが、記録によりますと、琉球船はそんな蘇芳を一度に15トンも積んだというのですから、帆船の製造技術も、操縦技術も、本当に高いものがあったのだと思われます(『日・タイ交流六〇〇年史』)。
その後、御朱印船貿易でも、蘇芳は重要な輸入品目でした。
スオウは、タイではまったくありふれた、森の雑木です。
染物材料として輸出されていたころは、原価はただでも、山から切り出して、港まで運び出さなくてはなりませんから、川を利用したとしても、大変な作業だったに違いありません。
今、そんな歴史があったことなど知らぬげに、スオウはひっそりと他の木にまぎれて、森で生きています。しかし、ひとたび実がなると、とたんにスオウだとわかります。その莢の形のかわいいこと、まるで小さな角が生えているようです。
ちなみに、日本でスオウ(ハナスオウ)と呼ばれている、濃い桃色の花の咲く木は、染物に使った蘇芳とは、まったく関係ありません。どちらも、マメ科ではありますが。
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