2015年8月21日金曜日

デンマークの石(二)鳴る石

アンとイエンスの家の居間の一角に、直径4センチほどの、小さなスワンカローク焼きの同じ形の壺が、10個ほどかたまって置いてありました。
スワンカローク焼きは、タイのスコータイ県、サワンカローク地方で、十三世紀から十六世紀にかけてつくられたもので、日本でも豊臣秀吉の時代、南蛮船によってもたらされ、宋胡禄(スンコロク)として、珍重されたものでした。
スワンカローク焼きは、なかなか魅力的な焼きものですが、贋作も多くつくられています。
真贋を見抜く力のない私は、タイに住んでいた当時から、スワンカローク焼きには近づきませんでした。

さて、その壺たちの中に混じって、下が扁平で、上がぷくっと膨らんだお饅頭形のものがありました。


焼きものかしら?
よく見ると、小さな穴が二つばかり開いていました。
手にとってみると、ちりんちりんと音がします。
「これは何?」
と、アンにたずねました。
「それ、石なのよ」
「ええっ、石!」

40年ほど前、イエンス夫妻と、同じ家の階下に住む建築家のイエンスの三人は浜辺に遊びに行きました。
そのとき、アンがまん丸い、ボールのような石を拾いました。あまりにも丸いので拾ったのですが、振ってみると音がしました。そして、よく見ると小さな穴が開いていました。
アンはその石を二人に見せました。三人とも、それが何だかわかりませんでしたが、もっとさがしてみようということになり、一生懸命さがしたら、みんなで五つほどの鳴る石を見つけることができました。
最初にアンが拾った鳴る石はまん丸でしたが、あとはすべて、下が平らで上がぷっくり膨れた形をしていたそうです。

その後、地質学者の友人がイエンスの家に遊びに来て、その石を見て大興奮しました。白亜層(チョーク)から出てくる、古い古い石だというのです。

地質学者によると、波にもまれて丸くなった固い小石を、比較的軟らかい石灰(ライム)層が覆います。その石灰層に覆われた石が、波にもまれて丸くなったあと、さらに何かが起こって、今度は表面に見えている、固い黒い石に覆われます。
そして、その石が割れて小さくなり、さらに波にもまれているうち、黒い石の一部に小さな穴が開き、そこから出たり入ったりする水が、固い石と固い石の中間の、柔らかい石灰層を溶かし、中に残った小さな固い石が動くようになり、音をたてているのだそうです。

ぜひその浜に連れて行って欲しいと言う地質学者を、イエンスたちは案内しました。その日、脚を棒にしてさがしましたが、たった一つ見つかっただけでした。
その後、鳴る石はみんなに知られるところとなり、多くの人が拾いに行ったのかどうか、今ではめったに見つからないということでした。
 

さて、これは、私が小さな港町の路上の脇に敷いていた砂利の中から拾った小石です。


割れ口を見ると、石灰層が黒くて硬い石を包んでいるのがわかります。
鳴る石は、きっとこんな石を包んだ固い石が割れてできたに違いありません。割れて、その断面が見られる石も見たことがあるそうです。

ところで、昨日Shigeさんからいただいたコメントから考えると、石灰層に覆われた石が波に洗われて丸くなったのではなく、黒い石が海で、石灰藻類の石灰分に覆われたものかもしれません。あまりにもきれいに、薄く覆われているからです。


もっとも、拾った石の中には、こんなのもありました。


鳴る石は、海岸に転がっているのではなく、チョーク(白亜層)が切り立ったところにあります。
波が崖を洗うと、その白亜層の中から出てくるのだそうです。
そのため、波打ち際ではなく、チョークの壁側を見ていないと見つかりません。
また、チョークは少しの浜も形成せず、海から直接切り立っているところが多いので、そんなところでは、人は古代の石や化石を拾えません。

あの、メアリー・アニングが、チョークの切り立った海で、引き潮のときだけ誰も行けない海に出て、数々の化石や恐竜の骨を掘りだしたのを思い出します。
 

さて、私もコペンハーゲンの南の海で、たった一つだけ、鳴る石に通じるような石を見つけました。
石の中に別の石がめり込んでいて、さらにめり込んだ石が石灰層を持った石を抱いています。


その石を反対側から見たところ。
やはり、石灰層の輪が見えます。
こんな石が、割れ方によっては、中に小石を残して、鳴る石になったのでしょうか?


それにしても、鳴る石がすべてお饅頭形、上から見たらまん丸というのも、気になります。

白亜紀は、中生代の終り頃、約1億4500万年前から6600万年前のことを指します。
その白亜紀にはすでに丸い石になっていたということは、いったいいつできたものなのか!
鳴る石は、そんなロマンを抱いた石だったのです。







6 件のコメント:

Shige さんのコメント...

今日も石が続々出てきますね。(笑)
表面は風化や叩かれて白くなっていても、割ってみると中央が黒い石は、石灰岩でしょう。石灰岩の色バリエーションは大きく、新たに割った面でも白っぽいグレイから、真っ黒に近いものまで。東海道線を西に向かうと、大垣過ぎたあたりの北側にある金生山(きんしょうざん)、ここは石灰岩の山ですが、一つの山でも様々な色があります。黒っぽい石が磨耗し、海で打たれるとパーカッションマークができ、これが重なると表面が白っぽくなることがあり、写真で見ると打痕と磨耗が同時にすすんだのでしょうね。

下のほうにある丸っこい模様の石も化石のようにもみえます。

さんのコメント...

Shigeさん
石はやっぱり面白いです。とくに「鳴る石」、そんなものがあるなんて考えてもみませんでした。なんとか「鳴る石」を拾いたいと目を皿にしましたが、「グレーの石は忘れて」と言われても、ついつい目が行き、「黒い石、黒い石」と唱えていても、丸い石を見たらすぐ拾ったりして(笑)。でも、いやはや楽しかったです。
グレーの石さえ、打ち合せると「キーン」と高い音がします。

mmerian さんのコメント...

鳴る石の奏でる音、聞いてみたいです。
切り立った崖は、メアリーアニングの世界を想像しますね。
比較的新しい地層に住んでいますので、古い地層に憧れてしまいます。
恐竜の化石なんか絶対出ないし。

さんのコメント...

mmerianさん
何とも思わず行きましたが、古い地層ってすごいですね。チョークやライムは小説の中でしか知らない世界でしたが、見ました!
小説に出てくると言えば、ヒース(荒野や荒野の花)も見ました。いい季節だったぁ!一度見たかったんです♪

Blue moon さんのコメント...

土鈴のアイデアをすごいなぁと思っているのですが。
天然石鈴は、想像を超えています。ほしいなぁ。

さんのコメント...

Blue moonさん
鳴る石には、本当にびっくりしました。しかも、一つでなく複数拾えただなんて。手に取って見たとき陶器だとしか思いませんでした。最初、穴にも気づかなくて。ほんの小さな穴が開いて、そこから塩水が出入りして、中の石灰質を溶かすなんて、奇跡ですよね。
もしかしたら、オーストラリアの海岸にもおもしろいものがあるんじゃないですか?地球の歴史は46億年でしたっけ。46億年の間にはいろんなことがあって、個人なんて、通り過ぎる塵ですね(笑)。