2012年9月1日土曜日

ビンロウ


私がビンロウ(Areca catechu)と言われて、まず思い浮かべるのは細い、美しい緑の幹と、たわわに生ったオレンジ色の実です。
ただ、大きなお屋敷の塀際、あるいはホテルや道路わきに、整然と並べて植えてある印象が強く、自然界とか、この絵のような乾燥地帯では、ほとんど見ることがありませんでした。

カンボジアの結婚式は大掛かりなもので、今でも三日もかける人がいますが、フンセン首相は一週間以上かけて、古式にのっとった結婚式を行いました。
そのとき、自分の家になかったビンロウを移植させて庭に植え、それを誰かがするすると登って実を採ってくることから結婚式をはじめたという話を知ってからは、
「ただでさえ細い幹でしなるのに、移植が一般的でない熱帯で、どうやってあの木に登ったの?」
というのが疑問が頭から離れなくなり、ビンロウを見るたびに、その話を思い出してしまいます。
途中で木ごとひっくり返ったりしたら、結婚式は台無しじゃないですか。

ビンロウの実は聖なる実でもあり、東南アジア各地では、とくに対人関係を深めるのに重要な役割を果たしてきました。客が来ると、まずおいしいキンマを勧めたのです。

というわけで、カンボジアの結婚式には、花婿からの贈り物として今でもビンロウが欠かせません。


ビンロウの実で次に思い出すのは、嗜好品としてのキンマです。
キン・マークすなわち、ビンロウの実(マーク)を、プルーの葉や、刻み煙草、石灰(貝殻の粉)などと噛む(キン)ものです。
石灰は蓋をしてある容器に入っていて、見えていませんが、奥の左の緑色の葉がプルー、その右は巻き煙草用のニッパヤシの葉でしょうか。そしてその右が切って乾燥させたビンロウの実です。

このようなビンロウは見慣れていましたが、ビーチ・コーマーの方々が拾われたビンロウを見ても、 あまり見慣れない姿なので、ピンときませんでした。


ビンロウヤシの実は、大きいもので卵くらいの大きさで、こんな構造になっています(『花の王国・薬用植物』 荒俣宏著、平凡社)。
キンマを噛む人たちはまだ青い実を生で、あるいは切っておいたものを乾燥させて噛みます。
プルーの木(蔓性)と、ビンロウを庭の一隅に植えておけば、いつでもキンマが楽しめるというわけです。


その種を取り出して、磨いたオーナメントです。


ビンロウは昔から、消化薬、駆虫剤として使われ、中国経由で日本にもたらされたのは奈良時代でした。十世紀の、日本最古の医書『医心房』 によると、ビンロウの効能は、あらゆる風邪の治療薬、口内および衣服の芳香剤、脚気の治療薬などでした。


それにしても、日本の海岸にビンロウの種が流れつくってどういうこと?
ビンロウはココヤシ、ニッパヤシなどのように海岸で一般的なヤシではありませんし、サゴヤシのようにちょっと内陸に入った水辺に育つヤシでもないので、自然に落ちることはなかなか考えられません。

考えられるのは、リゾートホテルのプールサイトなどに整然と植えられたビンロウの実を、たわわに生っても、今ではキンマとしての需要が少なくなり、邪魔になって海に捨てているということでしょうか?

東南アジアの人たちは、昔の日本人のように、川や海に簡単にゴミを投げ捨ててしまいます。人工物ではなく、それが木の実などであれば、遠い国の人が楽しめるのだから、なかなかよいことかもしれません。


2 件のコメント:

Shige さんのコメント...

ビンロウについて詳しく教えていただき、ありがとうございました。
様々な使い道があるものですね。世の中、知らないことばかりで楽しいなぁ~!!

さんのコメント...

Shigeさん
お役にたてれば何よりです。こちらこそ、いつも教えていただくばかりで、ありがとうございます。知っていることの多さでは、Shigeさんの足元にも及びませんが(笑)。
それにしても、ビンロウの実がどうして流れつくのかいまだに不思議な気持ちです。