2015年7月6日月曜日

白樺の浮き


遊びに来ていた、フィンランド人のPさんが、
「これは、白樺だろうか?違う気もするけれど」
と、持っていたのは、パルメラヤシの葉で編んだ箱でした。三年暮らしたカンボジアから帰国するとき、農村の女性Sさんが自分で編んで、お土産を入れてくれた包装箱です。


「白樺細工はこれよ。スウェーデンのものだけれど」
素材は違いますが、テープの太さといい、編み方といい、そっくりです。
ロシア、バルト三国、フィンランドやスウェーデンあたりでは、いまでも白樺細工が盛んにつくられています。
 
Pさんは、64歳。
フィンランドの農村で生まれ、当時の義務教育の7年2ヶ月が終わると、昔堅気のお父さんに、それ以上学校へ行かなくていいと言われ、幼くしてスウェーデンの車工場に出稼ぎに行きました。
それだけで終わりたくないと考えたPさんは、カナダに出稼ぎに行き、炭鉱夫などとして働いた後、スウェーデンに帰って高等教育(移民には無料)を受け、保育士になりました。
教育者への門戸が狭いためフィンランドで働くのは断念して、いまはスウェーデンで保育士として働いていらっしゃいます。

フィンランド人はウラル語族で、北欧三国と距離的には近いけれど、まったく違う言葉を話すそうです。そして、ウラル語族は、フィンランドの他には、シベリア中北部、北ヨーロッパ、東ヨーロッパなどにも住んでいます。

Pさんは子どもの頃田舎で育ち、お祖父さんと暮らしたことなどから、
「同世代の中では、昔のことをよく知っている方だ」
とおっしゃっていました。
自給的な生活で、お母さんは麻を植え、それを糸にして、衣類からシーツまで、家じゅうの布を織ってくれていたそうでした。

そんなPさんに、以前Shigeさんにいただいた、日本海側の海岸で拾った白樺の浮きを知っているかどうか、たずねてみました。


「漁網につけるんだろう?知っているよ。でも見たのは、ずっとずっと昔のことだけどね」
白樺浮きは、今はフィンランドでは見られないとのことでしたが、昔は使われていたのです。
Shigeさんの漂着物のWeb Pageには、以前は確か、白樺浮きはロシアから漂着するのか、北朝鮮から流れてくるのか不明とありました。
ところが開いて見ると、最近、スチレンボールにハングル文字がある浮きと白樺浮きが併用されていたのを見つけたので、白樺浮きはハングル圏で使われているものではないかと、訂正されています。

でもハングル圏だけではないかもしれない、フィンランドでもその昔は使われていたとすると、白樺の多いシベリアのラップ人(ウラル語族)などの間では、今でも使われているのではないかと、想像できます。
 

白樺浮きは、日本海側では、とてもありふれた漂着物だそうです。

Pさんのお話によると、シベリア鉄道に乗ってシベリアに差し掛かると、いまだに自給的な生活が営まれているようで、昔のフィンランドを見るようだそうです。
そんな、シベリアで漁労に使われた網や白樺浮きが流されて、日本海の浜に漂着するなんて、すごいロマンがあります。

日本海岸でビーチコーミングしている人たちにとっては、白樺浮きはありふれたものでしょうけれど、ぜひ一度拾いに出かけていきたいものです。




5 件のコメント:

hiyoco さんのコメント...

なんかびっくりする話がいっぱい!
12、3才で違う国に出稼ぎに行くとか、スウェーデンでは移民は無料で高等教育を受けられるとか、以前から男性の保育士がいたとか。改めて地図をみて、フィンランドってロシアのすぐ隣だとわかりました。なんとなくあそこらへん、としか認識していなかったので。あちらでも、日本と韓国と中国ってあそこらへん、って思っているんでしょうね。

hiyoco さんのコメント...

そう言えば昔見たフィンランド映画は全て暗ーいイメージ(監督はアキ・カウリスマキ)で、北欧というより東欧って感じでした。でも2006年の日本の映画「かもめ食堂」はいかにも今ブームの北欧って感じです。映画でOPAというメーカーのやかんが使われていますが、偶然にもうちのやかんもOPA社のものでした(形が違うけど)。うちの唯一のメイド・イン・フィンランドのものです。

さんのコメント...

hiyocoさん
おもしろい話がいっぱいでした。こんなことでもないと、なんとなくフィンランドってあそこらへんとしか、思いませんよね。彼が7年2ヶ月の学校を終えて2年後に、義務教育制度が変わって、長くなったそうです。
第二次大戦後、もともと貧しいフィンランドは、その上ソ連に戦争賠償を払わなくてはならず、知恵を絞って生き残りを考え、あるのは森林資源と人、ならば人の教育に力を入れようと考えたそうで、都市ではなく農村から新しい制度を取り入れて普及させていったそうです。末端から中央へとは、おもしろい発想です。
スウェーデンは、保育園から大学まで教育費は無料ですが、こちらはよく教育方針が変わるそうです。でもフィンランドは一度決めたことを、ずっと実行し続けているので、それなりの成果が上がっているのだそうです。
彼も、フィンランドで働くことも考えたのですが、教職につくのが狭き門でスウェーデンにしたとか。そのスウェーデンでは、昔ほどではないけれど男女の仕事の区別があり、お母さんのすることの延長である、保育、看護などは圧倒的に女性の職場で、男性である彼はその中で、もまれているそうです(笑)。
スウェーデンには、「よき市民をつくる」というのがあって、お連れ合いの日本人のSさんも、移民なので無料で語学を学べました。スウェーデンでは高校から大学にすぐ行く人はほとんどいなくて、いったん社会に出て、自分が必要だと思ったときに大学に行くなりして、改めて勉強するそうです。これっていい制度ですよね。

「かもめ食堂」は見たことがありませんが、同じお皿を持っています(笑)。他にも我が家には、フィンランドの食器、鍋、ポットなど、とくにアラビア社のものが、ムーミンのマグとかごろごろあります。アメリカで初めてアラビアの食器やお鍋を見た時は、「えっ、こんなお皿を使っている人たちもいるのか!」と大びっくりでした。もう一つフィンランドを有名にしたテキスタイルのマリメッコは一つも持っていませんが。
今はノキアなどもあり、フィンランドは、あのあたりでは有数の豊かな国らしいです。

Shige さんのコメント...

おお、白樺~!!

北欧ではかって使われていたこと掴んでいます。
そしてロシアの一部でも使われていたことをロシアの人から聞きました。

ただ、白樺浮きの一部は韓国東海岸でも使われているのが判明したのです。(笑)

できれば、近いうちに漂着物学会総会で、まとめることができたら発表も考えています。

さんのコメント...

Shigeさん
ちょっと前まで、「謎の白樺浮き」とか言っていたのにさすがShigeさん、いろいろなことがわかって来ているのですね。
どうして網ごと流されたりするのか?冷たい海が漁をしている最中に凍って網が取れなくなり、泣く泣く置き去りにしたり、ちぎれたりした。と私は推理しましたが、まさか、そんなことはないでしょうね(笑)。