2017年7月10日月曜日

テムズ川は宝箱


Shigeさんが一か月ほど前に、ブログで『LONDON IN FRAGMENTS/ A MUDLARK'S TREASURES』(TED SANDLING著、2016年)という本を紹介していました。
面白そうと、さっそくAmazon注文しましたが、いったいどこの国からやってきたものか、Amazonにしては時間がかかり、注文してから一か月以上経って、やっと届きました。

これはロンドンのテムズ川河岸で、潮が引いたときに拾った、「かけら」の本なのです。

「TOMO EAGLEのテムズでズンドコ」より

テムズ川は、河口から90キロ内陸に入ったあたりまで、潮の満ち干で水位が変わります。
そんなテムズ川の河岸でのマッドラーキング(お宝さがし)は、18世紀から行われていました。貧しい人たちが、石炭輸送船が荷揚げの時に落とした石炭や、鉄くずなど、川底のものを拾って生計を立てていたのです。
 
「TOMO EAGLEのテムズでズンドコ」より

また、昔は何でもかんでも川に捨てていたので、川ではいろいろなものが拾えました。
しかも、川底の泥に酸素がないので、素焼きの製品や鉄製品、また革製品などが酸素のない泥の中で劣化せず、何百年もあるいは千年以上、よい状態で保存されています。
これらの要因が合わさった結果、テムズ川は昔のものが大量に眠る、「遺跡」となったのです。
20世紀の半ばに、マッドラーキングは一度絶えましたが、1980年代から、今度は学術的な関心や趣味で行われるようになりました。
許可を持っていない人は、河原や川底を掘ることは禁止されています。だからひたすら、川の流れが掘り起こしたものを、拾うのです。

スリップウエアー、18-19世紀
 
この本はそんな、マッドラーキングにいそしむ著者が、自分の宝箱を開けて見せてくれる本です。

18世紀半ば。中国製、またはデルフト

ヨーロッパ各地の陶片、中国の陶片、


そして、日本の陶片もあります。
(一番下に、追記があります)

ドイツかオランダのガラス、16世紀終わりか17世紀初頭

比較的新しいガラスもあれば、

ローマングラス、AD100-200年

ローマ時代の古いガラスもあります。


パイプもたくさん、人形のかけらも落ちています。


歯磨き粉容器のかけらや、骨製の歯ブラシのかけらも。


著者のテッドさんがテムズ川で拾ったもののうち、一番古いのは、ウニの化石でした。
本の上に乗せた、本物のウニの化石は、一昨年、デンマークに行ったとき、友人アンがデンマークの浜で拾ったのをくれたものです。

追記:


このブログは、コメントが面倒なようで、ご迷惑をかけていますが、コメントできない北海道ののらさんから、上から六枚目の漢字が書いてある陶片とまったく同じ陶片を、2007年に北海道で拾ったとのメールをもらいました。

以下、のらさんのメールです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆

これは、日本郵船が、欧州航路の船内で使用していたもののようで、太陽のようなマークは日輪マークというそうです。
陶片の裏側には王冠のマークがあり、文字から英国の食器メーカーのマークではないかと思われます。
食器メーカーのASHWORTH BROTHERSから、日本郵船が明治30年にイギリス代理店より、食器を取り寄せたという記録も残っているそうです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
陶片はのらさんが拾ったのですが、昨年お亡くなりになった、陶器に半端なく詳しかった陶片狂さんが、いろいろ調べてくださったそうです。
まったく同じ陶片を、ロンドンと北海道で拾う、面白いことですね。
1960年代まで、海外への旅と言えば船でした。船の中のごみは、すべて海へと投げ捨てたことでしょう。

ということは、これは日本の陶片ではなかったということですが、この本には、ほかにも日本の陶片が載ってはいました。

追記2:


hiyocoさんが、テムズ川の河原から見つかった日本郵船の船旅に使われたお皿の陶片と、のらさんが北海道で拾った陶片の完品が、横浜の日本郵船歴史博物館にあると教えてくださいました。
素敵ですね。
船上では、こんなお皿で、食事がふるまわれていたのです。





4 件のコメント:

hiyoco さんのコメント...

ほんと、ロンドンと北海道で同じ陶片が落ちてるなんて不思議!ちょうどマークがあったところが見つかったからわかったんですよね~。これ、日本郵船の博物館に収蔵されているお皿と同じじゃないでしょうか。http://www.nyk.com/yusen/656/

さんのコメント...

hiyocoさん
ありがとうございます。
コメントできないのらさんから、メールが届いていたので転載します。
☆☆
hiyoco さんがコメントで教えてくださった日本郵船の博物館が所蔵する皿を見ました。
確かに同じ!初めて全体像が分かりました。縁に青い一本のラインが入っていたのですね。今度それらしい陶片があったら拾ってみます。
このマークが入った食器が他にも何種類かあったのかしら?
何故道北のここにあったのか?と考えると、戦前に欧州航路に乗った人がいた?でも食器は普通持ち帰らないでしょう?
一片の焼き物からワクワクが広がります。
☆☆
確かに北海道はちょっと不思議ですね。ナホトカとかに行く便だったのでしょうか。夏目漱石もこのお皿で食事していたと考えると、愉快ですね。

hiyoco さんのコメント...

追記ありがとうございます。日本郵船は客船の食事には相当力を入れていたようで、銀の食器セットも使われていたようです。となるとこのお皿はもう少し格下?勝手な妄想としてはドライカレーが盛り付けられたのでは?!日本郵船の欧州航路の日本人コックが船上で開発したらしいです(http://www.nyk.com/yusen/kouseki/200603/index.htm)。まあ普通に朝食などに使われたかもしれませんが。
日本郵船って三菱系だったのですね。なんだか私もマッドラークになっていろいろ断片を拾い集めてしまっている!

さんのコメント...

hiyocoさん
これも十分格調高いですよ。イギリスに発注なんて、思い切っています。明治ではまだ、満足のいくディナープレートが日本では作れなかったのでしょう。一等船室用じゃないですか?
ヤフオクで、日本郵船のオールドノリタケ(https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/d147055875)を見つけましたが、大正だそうです。そのころにはいわゆる西洋皿が日本でもつくれるようになっていたのでしょう。私の祖母は、初任給ではミシンを買ったらしいのですが、自分で買ったノリタケとか香蘭社の西洋皿も何枚も持っていて、ライスカレーはそれで食べました(笑)。あこがれだったんでしょうね。
マッドラーキング面白そうですね。ロンドンがロンディニウムと呼ばれていて、奴隷が漕ぐガレー船が行き来していた時代からのかけらがザクザク眠っているなんて、ちょっと行って見たくなりました(笑)。