2012年7月17日火曜日
ニッパヤシ
本棚を見ているとき、ふと一冊のファイルが目につきました。
「なんだったんだろう」
開いてみると、1997年に、休暇を利用して訪ねた、タイ南部、トラン県の訪問記でした。
遠浅の海草原のある地域、マングローブの生えている地域、少し川を遡ってニッパヤシの生えている地域に住む人々の暮らしなどを、タイの友人の主宰するNGOを通して垣間見させていただいた、貴重な旅でした。小さな舟に乗せていただいて、近くの島にも行きましたし、もう少し内陸のサゴヤシの村にも行きました。
いずれも地域の自然を生かしながら、築き上げた生活が印象的でしたが、その中で、日本の海岸にも流れ着くニッパヤシのある生活を、ご紹介したいと思います。
トラン川流域には、100年以上ニッパヤシと共に暮らし、ニッパヤシの加工で生計を立ててきた村がいくつか点在しています。その一つ、ヤンスー村を訪ねました。
川の向こう岸のニッパヤシの中に、ヤンスー村があります。
こちら岸から、
「おーい」
と呼ぶと、小舟が迎えに来てくれました。
ニッパヤシ(Nypa fruticans Wurmb) は、インド、マレー半島、豪州、フィリピン、太平洋諸島の泥湿地帯などに生育し、マングローブの一種に数えられています。
トラン川流域の村の、ニッパヤシと共にある暮らしは、まだ葉を出さない若い芽から、刻み煙草のための巻き紙(巻き葉)をつくり、葉は屋根材や壁材にし、葉柄は建材にし、葉軸で籠を編み、まだわかれていない若い葉で水汲み容器をつくり、果肉は食し、花梗からは樹液を採って、砂糖をつくる、といったようなものでした。
おもな収入源はたばこの巻紙つくりですが、屋根材、砂糖なども市場に出していました。
当時、トラン川の河口から、県庁所在地のトランまで、物資の運搬や観光を目的とした、浚渫と護岸工事の計画がありました。もしその計画が実行されると、人々の暮らしは成り立たなくなりますし、ニッパヤシを切ってしまうと、土壌が侵食され、水は酸素不足になって汚濁し、たくさんの水中生物が棲めなくなります。
さて、ヤンスー村の煙草の巻き紙つくりです。
まだ葉の出ていないニッパヤシの若い芽を切り取り、一定の長さに切って、若い葉を取り出し、
乾燥させます。
乾燥したものをしごいて、若い葉を整え、
さらに乾燥させます。
よく乾燥したものを、一定の長さに切りそろえ、ビニール袋に詰めると、刻み煙草用の巻き紙の完成です。この一定の長さに切る道具が素敵です。
当時、生産者価格は一束2バーツ、店頭価格は4.5バーツでした。
近年、タバコが有害とされているのは、栽培時に使われる農薬や、加工時に使われる化学物質が、煙になったとき6000種類以上の有害物質に化学変化するからだと言われています。また、紙巻きタバコの紙にも、燃えると有害な、塩素などが含まれています。
それに比べると、自家栽培した煙草の葉を刻んで、ニッパヤシの葉で巻いたタバコは、比べものにならないほどヘルシーです。
ニッパヤシの実です。
果肉はココヤシと似た味で、ほのかに甘く、おやつになります。
屋根材をつくるには、同じ長さに揃えたニッパヤシの葉を、葉柄を割いたものを芯にして二つ折りにし、細く裂いた葉で縫いつけます。一枚の長さ(幅)は、120センチです。
当時屋根材は、一枚5バーツでした。
泊めていただいた、別の漁村の家ですが、屋根も壁もニッパヤシで葺いてあります。高床になっていて、風通しも良く、快適でした。
屋根を葺くときは、下から順番に葺いていきますと、雨も漏りません。3年くらいもちます。
そして、ニッパヤシの葉軸で編んだ籠です。
私が訪問したのは5月だったので、残念ながら、12月から2月にかけてつくるという、砂糖づくりは、見ることができませんでした。
最後に、ご飯を。
漁師さんたちは、市場に出せない、網に引っ掛かって爪のとれた蟹やエビ、形のそろわないイカや魚など、海の幸をふんだんに使って、毎食とってもおいしいごはんを食べていました。
ニッパヤシを生業としている人たちも、蟹やエビはたくさんとれていました。タイ東北部の普段食と比べても、私の普段食と比べても、すごい大ご馳走でした。
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4 件のコメント:
ニッパヤシって、こんなふうにマングローブになって生えているのですね。
貴重なお写真を見せていただき、ありがとうございます。
ニッパヤシがタバコの巻き紙になっているなんて、全然知りませんでした。(笑)
のぶさん
ニッパヤシの漂着が少なくなっているそうですね。
私も、村を訪ねるまで、ニッパヤシだけで生計を立てている人がいることを知りませんでした。
未熟な葉の薄さといい、すでに巻きぐせがついているところといい、幅がちょうどいいことといい、刻み煙草を巻くのにぴったりなんでしょうね。試したことはありませんが、お味もいいのでしょうか。きっと焚き火臭いだろうな(笑)。
タイ政府は税金が取れないので、家庭でのお酒つくりは禁止していましたが、タバコ栽培はどうだったかしら。乾燥したタバコの葉を刻む道具も素敵なんですよ。
こっちでは稀に拾えるにっぱやし、こんなにステキなストーリーがあったのですね。
マングローブの構成植物・・・くらいの認識しかありませんでしたが、本当に生活に密着した植物なんですね!
ありがとうございます。
そしてリンク先で紹介されていた竹の容器もステキですね。
Shigeさん
こちらこそ、ニッパヤシの実が日本で拾えるなんて、以前はまったく考えたこともなかったのに、教えていただいてありがとうございました。おかげで、さらに親しみ深いものになりました。
ニッパの村で暮らす人たち、忙しそうだけど、楽しそうでしょう?
竹筒は、いつものように「欲しい」と顔に書いてあったので(笑)、古いのをくれました。使い込んでいて、軽くて素敵です。
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